#59131;感覚トリックの正体は?#59131;

私は、この言葉は神経内科にのみ通用するローカルな言い回しだと思っています#59034;

斜頚(頸が左右どちらかに捻転した状態で自らの意思で頸の位置を元に戻すことができない)において、例えば頸に手を添えると頸を正中位に戻すことができます。
この頸に「触覚刺激」を与えることを「感覚トリック」と言います#59054;#59025;

#59102;舌ジストニアで舌を思うように動かして話せない方でも、箸を咥えて話せば少し話しやすいというのも、感覚トリックの範疇に入るでしょう。
#59102;また、パーキンソン病の安静時振戦も振戦している指を検者が触れば一瞬振戦は止まります。
これも感覚トリックと同じメカニズムだと私は考えています。

 振戦と感覚トリック.mpg

しかし、このような感覚刺激による運動の変化は、トリックと呼ぶようなものではなく、日常生活には多くみられる現象だと思います#59025;#59029;

日本語の治療を意味する言葉に“手当て“という言葉があります。
例えば、癌患者の家族が「腰が痛むので麻薬をお願いします」と看護師に連絡し、注射を待っている間腰を擦っていると寝てしまったということがあります。

擦ると痛みが改善するということも最近報告され、他者の感覚入力が痛みを和らげるということは、科学的事実として認識されてきました#59130;
 

言葉を換えてみれば、


「常に脳内に存在する痛みと呼ばれる電気信号は、新たに入力された電気信号によって変化し、痛みと感じる電気信号ではなくなった」


ということになります。これは感覚が、感覚を変化させるという例です。

一般的な運動は、常に感覚のフィードバック(関節位置覚や筋紡錘情報)を受けて運動の精度は上昇します。従って、小林秀雄が言うように「動作の中の感覚、感覚の中の動作」という理解こそが大切で、本来は感覚と動作を分けて考えるのは難しいと思います。

この論文では1N以下で指を機械的に触った時の、床反力計で体の揺れを計測すると、揺れる面積が縮小することを示しています。

しかし、この揺れの改善は短い時間しか効果が無く、安静時振戦に対する指のタッチと同じ機構であり、一種の感覚トリックだと思われます。

#59034;私の考えでは、ある一定の運動の状況が維持されている時(振戦やジストニアなど)に、ある特定の場所に一定の感覚刺激を与えることで、その状況がリセットされると推察しています。

感覚トリックの正体は、感覚入力によるリセットを意味するのではないでしょうか#59139;