神経の症候はやたら外人の名前が付与されているものが多く、若い人からは敬遠される傾向があります#59136;

しかし、少し身近なテーマから考えていけば、正常な方の感覚や動作の成り立ちを実在として感じることができ、動きを計測することで内在される脳システムを科学的に記述することができます#59138;

そうなれば、システムエラーとしての神経症候を記憶するのではなく理解することが可能になります。


#59131;では最初のテーマです#59131;

テーマ1「他の人が触れば「くすぐったい」が自分で触っても「くすぐったくない」のは何故?」(Nature Neurosci. 1:635-640,1998)

脳は低コストで作動する一種のコンピュターです。

計算スピードでは通常のコンピュターには劣りますが、プログラムを書き換えたり、フィードバックメカニズムを用いることで環境に対応できるのが大きな特徴です。

例えば、洋服を着て椅子に座れば、下着、靴下、椅子、靴などの感覚情報が常時頭に入力されるはずですが、それでは脳は情報洪水に陥ります#59142;

そこで脳は不必要な感覚入力を抑制します

自らの腕を動かして、自らの体を触るとき、脳には非常に多くの腕の伸展、屈曲情報および速度情報が筋紡錘というセンサを介して届きます。

そこで脳はこれらの情報処理に追われるので、余分な感覚情報入力を抑制します。

研究では、表在感覚は50%程度抑制されるようです#59138;

この原理に従えば、自ら腕を動かし自らを触るとその表在感覚が抑制され

「くすぐったくない」という説明になります#59029;

「ゴルフをしている時に肩こりを忘れる#58942;」

「指や腕が痛いのに走っている時は忘れていた#59130;」

という日常生活の出来事も、動作が感覚情報を抑制するという原理から科学的に説明できるように思います。

 

さらに研究された論文では、受動的運動でも動かそうとした意図だけでも感覚入力は抑制されると報告されています(J.Neurophysiol.88:1968-1979,2002)

「心頭滅却すれば、火もまた涼しい」と言われますが、これも比較的近いメカニズムで説明できるのかもしれません#59142;

ある病気では、動作が感覚入力を抑制しないと報告されています。自分と他人が識別できない病気です。

#59011;興味ある方は論文を調べてみてください(Am J Psychiatry 162:2384-2386,2005)